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【高校生の就職調査 シリーズ①】<一人一社制>8割の教員が支持する理由(キャリア&就職支援ジャーナル31号より)
進路情報研究センター・ライセンスアカデミーは9月、全国の高等学校進路指導部のべ5,049 校(全日制・定時制・通信制、一部サポート校含む)を対象に「新規高卒就職に関するアンケート調査」を実施した。今号では、教員の視点から見た「一人一社制」、高校新卒就職者の「早期離職問題」など、就職指導現場の実態に迫る調査の結果内容を詳報する。
調査対象は全日制・定時制・通信制など全国の高等学校(一部サポート校含む)の進路指導部、のべ5,049 校。
ファクシミリによる質問紙を用い、有効回答数は706校だった。設置者別の回答校内訳は国立0.4%、公立68.7%、私立30.9%となった。
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【高校生の就職調査 シリーズ①】<一人一社制>8割の教員が支持する理由(キャリア&就職支援ジャーナル31号より)
【高校生の就職調査 シリーズ②】<就職指導> 1年生からの目標設定(キャリア&就職支援ジャーナル31号より)
【高校生の就職調査 シリーズ③】<進路行事>高校で開かれるイベントに信頼感(キャリア&就職支援ジャーナル31号より)
【高校生の就職調査 シリーズ④】<会社選び>1年生からはじまる企業の研究(キャリア&就職支援ジャーナル31号より)
【高校生の就職調査 シリーズ⑤】<教員の声>高校が高卒採用企業に求めること(キャリア&就職支援ジャーナル31号より)
【高校生の就職調査 シリーズ⑥】<職場見学>7月中旬から始まる比較検討(キャリア&就職支援ジャーナル31号より)
【高校生の就職調査 シリーズ⑦】<早期離職>情報不足が与える影響(キャリア&就職支援ジャーナル31号より)

圧倒的多数の都道府県が「一人一社制」生徒の安定した就職先企業を確保
高校新卒就職志望者を取り巻く環境の中で、特に社会的な関心を集めているのは、「一人一社制」の存在だろう。
一定の期日まで、就職志望生徒一人については一社に限り学校内で選考した者を高校が推薦する「一人一社制」。生徒の送り手側と受け手側というように、高校と企業、双方にとって半ば連綿と続いてきたこの仕組みの根幹にあるのは「実績関係」と呼称される良い意味での結びつきだ。
その大きな特徴は、高校の側に立てば、高校新卒就職者にとって溶け込みやすい就職先企業を安定的に確保することができ、企業側は、年齢的にも若く柔軟な思考と理解力のある人材を継続的に採用できるメリットがある点だとされる。
「担任教諭や就職指導担当教員の指導を受けながら就職活動をしている」という状況が重要であり、高校と企業が関係性を途切れないようにすることで、双方が求人票だけを媒介にした水平的な関係にのみとどまることのない信頼感を紡ぎ続けてきたことの伝統ある歴史でもある。多くの生徒に応募の機会が与えられることや高校教育への影響を考慮した短期間でのマッチングが可能であることなどから、高校の進路指導現場を中心に幅広く普及・定着をしてきた。
この在り方に関連して、令和2年2月、高等学校就職問題検討会議ワーキングチームによる「高等学校卒業者の就職慣行の在り方等について」と題する報告書が、「生徒は、応募する以外の企業・職場を十分知らないままに一社に応募し、内定すれば当該企業に就職することになる」と、言及。「このような慣行に基づいた就職指導の在り方、生徒の就職の仕方が、生徒自らの意思と責任で職種や就職先を選択する意欲や態度、能力の形成を妨げる一因となっているのではないか」と展開し、「そのことが早期の離職等の問題につながっているのではないかという指摘もなされている」とした。また、「令和4(2022)年4月より、成年年齢が18歳に引き下げられる中、教育再生実行会議第十一次提言や規制改革推進会議等における指摘なども踏まえつつ、今日的な観点からその在り方を検討していく必要がある」と指摘し、各都道府県の就職問題検討会議において地域の実情に応じて検討することが適当だと示した。
生徒の夢を実現させたい教員教員ならではの「支持」理由が極めて多彩
しかしながら、実際に高校現場の声を聞くと「一人一社制」を支持する姿勢が極めて鮮明だ。ライセンスアカデミーが行った「新規高卒就職に関する
アンケート調査」の結果によると「一人に一社ずつ応募する仕組み(いわゆる一人一社制)について、どのように考えますか」という質問には、「賛成」46.4%、「どちらかといえば賛成」32.5%、「どちらでもない」13.9%、「どちらかといえば反対」5.6 %、「反対」1.6%という結果が得られ、「賛成」「どちらかといえば賛成」を合わせた78.9%の教員が一人一社制を支持していることが分かった(図1)。
指導現場に立ち会う教員だからこそ見えるものがあることの証左なのだろう、賛成の理由は、実に多彩で示唆に富んでいる。その回答を、いくつかピックアップする。「一社を目標にして集中して取り組める」「すべての就職希望者に、平等にその機会を与えることができるため」など、一社に絞ることで集中力が高まり、志望動機がより明確になり、就職活動を進めやすくなるという趣旨の意見が多く挙がった。また、「企業と学校との信頼関係が崩れる可能性がある」など、仮に「一社制」ではない場合には、企業との良好な関係性が脆弱化するのではないかと危惧する声も少なくない。
一方、複数応募制となれば、就職志望者や指導を行う教員への負担が大きくなるのではないかとする懸念もある。複数の企業の採用選考を同時に受けることで、履歴書や面接対策がより煩雑化し、「一社」に対する思い入れが薄くなってしまうケースがないとは限らない。また、応募企業が増えることで面接の日程が増え、授業時間を割く場面が増えたり、遠方であれば経済的な負担が生じたりするなど、「一人一社制」だからこそ顕在化しなかった就職志望者への、身体的・心理的・経済的負担が大きくなってしまう可能性も排除できない。
反対の理由には、「不合格になった場合、選択の幅が狭くなってしまうため」「一つだけでなく、いくつかの会社を生徒自身で選んでほしいため」などが挙げられた。「どちらでもない」とする意見で象徴的だったのは、「多くのチャンスが与えられることは非常に良い。しかし、競争率が上がりこれまでは採用されていた(であろう)生徒も難しくなるのではないかと思う」というように、功罪相半ばするために判断が容易ではないという声が多数あることだ。
大学生のような就職活動を高校生に求めることは現実的ではない。一つには、高校新卒就職志望者に対する就職指導が、高校における教育活動の一環として行われ、生徒の平素の学習活動と密接に関わっているからだ。就職指導や職業紹介が教育現場で行われている意義を考える必要があるだろう。自由度が高くなく、ルールで束縛されているとさえ形容される高校生の就活だが、「一社」という表面上の指摘だけに拘泥し、そこだけに焦点を当てて矮小化すべきではない。高校、企業、行政、そして当事者の生徒たちが四位一体で取り組むということに目を向けるべきだ。そこから、従来の良い部分はそのままに、しかし同時に新しい価値観が生まれてくることを期待したい。