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【キャリア】日本経済の成長と発展のカギを握るダイバーシティ&インクルージョン(キャリア&就職支援ジャーナル33号より)

グローバル化の急速な進展やAI・IoT の技術革新によって、社会は目まぐるしく変革している。利便性が向上する反面、環境問題など世界が一つの社会となって解決していかなければならない課題も少なくない。
この約2 年の間に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって世界的な混乱が起き、全く予想していなかった方向に変化した部分も少なくない。ここでは、世界が大きく変わりつつある流れの中で、日本の企業が発展・成長を続けるために必要とされる「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」について見ていく。

社会構造や雇用環境の変化目前に迫る未来社会を知る

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がいつ収束するのか、その行方は依然として不透明だが、経済社会は「with コロナ」や「after コロナ」をハッキリと意識して企業活動を推し進めようとしている。
直近の2 年間は、教育現場はもちろん、「探究学習」などにおいて語られるところの「予測が困難な時代」が、あたかも形を変えて突如として牙をむいたようではあるが、それゆえ「時代」や「社会」がどうなるのかは脆弱性に満ちており、その延長線上で"After" である「次の時代」が強烈に意識され、また現に模索された印象がある。それでは、「次の時代」とは、いったいどのような時代なのだろうか。

政府が主導する「第5 期科学技術基本計画」によれば、「世界に先駆けた『超スマート社会』の実現」が喧伝され、具体的には、ロボットやIoT、人工知能(AI)、またビッグデータ等の先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、格差なく、多様なニーズにきめ細かく対応したモノやサービスを提供する」社会として、「Society5.0」が示されている。次の時代のイメージは、「経済発展」と「社会的課題の解決」の両立であるとされた。
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させた「超スマート社会」を実現させるための取り組みのことであり、「我が国が目指すべき未来社会の姿」だと位置づけられている。この理念は、国連が2030年までの達成を目指して提唱した「SDGs(持続可能な開発目標)」17 の目標&169 ターゲットとも、多くの視点において通底している。

一方、日本経済団体連合会(経団連、本部東京・千代田区)は、その提言書『Society 5.0 -ともに創造する未来-』において、「『技術的変化』『経済・地政学的変化』『マインドセットの変化』など、急激な変化の波が世界に迫っている」と謳った。Society5.0 時代を生きる人に求められる力を「社会に散らばる多様なニーズや課題を読み取りそれを解決するシナリオを設計する豊かな想像力と、デジタル技術やデータを活用してそれを現実のものとする創造力である」と定義し、「デジタル革新と多様な人々の想像力・創造力を融合することで、『課題解決』を図るとともに、われわれの未来をより明るいものへと導く『価値創造』をもたらす」と結論づけている。それと同時に、その一節「日本を解き放つアクションプラン」の中では、「企業が創造し、社会に循環する価値を増大するための戦略必要である。社会や組織が持続的に活力を生み出し続けるために産業の新陳代謝を図ると共に、組織とそこで働く多様な人が価値を生みだす土台を整える必要がある」とした。他方、Society 5.0 を実現していく上で、日本が目指すべき姿の一つは「『多様性を内包した、成功のプラットフォーム(土台)』である。日本人も含め、日本にいる、またこれから日本に来る多様な国籍と背景の人々が、日本で成功のきっかけをつかみ、日本や世界で活躍するためのプラットフォームとなる」と説いた上で、「多様性とは、もちろん女性の活躍、すなわち性別の多様性のみを指すものではない。それは大前提として、人種、国籍、宗教、年齢、障がいの有無は言うまでもなく、個性や経験、スキル、背景、価値観なども含め、あらゆる人々の多様性を包摂するもの」であると言明した。ここまで見てきて分かるキーワードはいずれも「多様」だ。政府が目指す「経済発展」や「社会的課題の解決」、また経団連が掲げる「価値創造」は、仮にどのように優れた人材であっても一人の力では実現できず、多くの「専門知識」や「実践的技術」を備えた人々の協業によってしか、おそらく実現しない。多様な人々がベクトルを一つに合わせるからこそ、これまでにないイノベーションが生まれてくるはずだ。換言すれば、多様性とは、異なる知識や技能・考え方の専門知や経験値が集まること。均質的ではないからこそ、そこから応用できそうな解決策が見つかる可能性が高まっていく。それらが多ければ多いほど、より難度が高く高度な問題解決や、価値創造も展望できるようになりそうだ。その意味では、多様性を受け入れるのと同時に、自分自身も他者にはない個性や能力に磨きをかける必要があると言えるだろう。

ビジネスにおけるD&Iとは新たな視点が成長エンジンに

現在の高校生が学校生活を終えて社会で活躍する頃には、日本は厳しい挑戦の時代を迎えていると予想されている。実にさまざまな変化・変革や展開が生じる「未来社会」が到来し、その流れの中で、社会構造や雇用環境は大きく、また急速に変化しており、「予測が困難な時代」となる。そうした状況や環境下でどのような能力や素養が必要とされるのかを言及するのはなかなか容易ではない。その意味で、どのような社会になっても決して戸惑うことがないように、将来に備えることが大切だ。昨今注目を集める「ダイバーシティ」と「インクルージョン」(D&I)は、まさしくそのために不可欠な構えの一つだ。「ダイバーシティ」は"多様性" と理解される言葉で、さまざまな特徴を持つ一人ひとりの個性を尊重して差別や偏見を持たない状態のことをいう。「インクルージョン」は直訳すると"包括" で、多様性を受け入れ、相互に協力し合うイメージを指すとされる。

これらは、日本社会でどれだけ浸透しているのだろうか。公益財団法人日本財団(本部東京・港区)が11 月30 日に公開した「ダイバーシティ&インクルージョンに関する意識調査」の結果を見てみよう。
「日本社会における社会的マイノリティに対しての差別や偏見の有無」という項目では、「あると思う」が44.1%、「ややあると思う」が41.8 % で、合計85.9%となった。前回調査で「あると思う」が60.1%、「ややあると思う」が35.8%と、偏見があると感じている人が95.9%だったのに対し、10㌽減少した形だ。年代別に見ると、特に20 代では2 年前の96.1%から80.7%へ15.4㌽も低下しており、若い世代を取り巻く環境において偏見や差別が減少している可能性が示された。

「ダイバーシティ/ダイバーシティ&インクルージョンに対する認知」の項目では、「意味や定義を知っている」が13.1%、「意味や定義をなんとなく知っている」が26.3%、「言葉を聞いたことはあるが、意味や定義までは知らない」が32.5%、「知らない・言葉を聞いたこともない」が28.1%だった。内容の認知率は39.4%で前回調査より9.5㌽増加、名称の認知率も71.9%で前回より5.4㌽増加しており、社会と意識の変化を裏づけている。
「この2 〜3 年における、自分自身のD & I への理解や支持の変化」では、意識が「高まった」と回答した人は9.2%、「やや高まった」は31.0%、「変わらない」は57.2%、「やや低くなった」、「低くなった」は各1.3%だった。D&I への理解や支持が高まったきっかけは「パラリンピック」が最多で43.7%、次いで「人種差別問題」40.2 %、「オリンピック」40.0 %、「SDGs」37.5%、「新型コロナウイルス」27.0%と続く。いずれもこの2 年間、メディア等で多く取り上げられた内容であり、社会と意識の変化を予感させる。D&I は日本では特に、ビジネスシーンで注目される機会が多い。経済産業省では、「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」を「ダイバーシティ経営」と定義し、推進している。多様な視点や価値観を取り込むことは、新たな発想が生まれるきっかけになる。日本経済の発展には「多様な人材の活躍」の実現が急務であり、それが成長のエンジンになっていくだろう。

日本商工会議所と東京商工会議所(本部東京・千代田区)が12 月6 日に決議した「多様な人材の活躍に関する要望」では、「女性の活躍推進」「外国人材の活躍推進」「高齢者の活躍推進」「障害者の活躍推進」「就職氷河期世代の就職支援」が取りまとめられた。
例えば、「女性の活躍推進」では、❶中小企業における女性活躍推進の取り組み支援❷働く女性の主体的なキャリア形成支援❸女性の就労を阻害する税・社会保障制度の見直し❹仕事と育児の両立支援❺保育の質・量の確保―を挙げている。❹仕事と育児の両立支援では、女性活躍の課題として約4 割の企業が「家事・育児の負担が女性社員に集中している」と回答。社会の動きとして男性の育児休業取得策が創設されたものの、取得が進んでいるとは言い難い状況だ。そのため、改正育児・介護休業法のていねいな周知や業務平準化の体制整備への個別コンサルティング支援等の対応を求めていくという。

これまでとは異なる「価値観」や「主体性」「姿勢」などが、出口である「社会」や「業界」「企業」などで求められていることを忘れてはならない。現在推進中の「働き方改革」もその文脈で考えれば、経団連による「働き方改革の真の目的」が、「多様な人材が働きがいを感じることができる環境を整えること、また、仕事の付加価値を高めることにある」との指摘も容易に理解できるに違いない。